着床前胚染色体
異数性検査
(PGT-A)について

着床前遺伝学的検査(PGT-A:Preimplantation genetic testing for aneuploidy)は不妊症・不育症の方を対象にした検査です。体外受精によって得られた「胚」を詳しく検査し、正常と認められるものを子宮に移植することにより、妊娠の成功率を高めることを目的に行われます。PGT-Aは胚の染色体の数に過不足がないかを調べる「着床前診断」であり、生まれてくる赤ちゃんの病気などを調べる「出生前診断」とは異なります。日本においては医学的・社会的観点から対象者と実施施設が限られていますが、当院は日本産婦人科学会に承認を受けたPGT-A実施施設の1つであり、対象となるカップルに向けて検査を行うことができますが、現在準備中です。

PGT-Aの検査対象者

日本産科婦人科学会では、以下の条件に当てはまる方をPGT-Aの対象としています。
  • 1.体外受精に2回以上失敗している(不妊症)
    体外受精・胚移植(ART)における不成功が直近で2回以上のカップル
    【対象外となるケース】
    • 染色体検査の結果、男性・女性のいずれかに均衡型構造異常が認められる
  • 2.流産を2回以上繰り返している(不育症)
    子宮内に胎嚢が認められた後、何らかの原因による流産を2回以上経験しているカップル
    【対象外となるケース】
    • 染色体検査の結果、男性・女性のいずれかに均衡型構造異常が認められる
    • 子宮形態異常や抗リン脂質抗体症候群など明らかに流産の原因となる病気がある
    このほか重篤な合併症がある場合、医師が不適切と判断する場合は検査対象とみなされません。
  • PGT-Aの検査方法

    PGT-Aでは、胚盤胞(受精卵)から切り取った細胞を観察して染色体の数を確認します。染色体は受精卵の正常な発育・成長において重要な役割を担っているため、染色体の数に過不足がある「異数性胚」では妊娠に至らなかったり、流産につながったりする恐れがあるためです。一方で、染色体の数が合計46本の「正常胚」であれば体外受精が成功する確率が高まるといえます。さらにPGT-Aでは正倍数性の特定ができるため、妊娠に至る可能性がもっとも高いと考えられる受精卵を選び取ることも可能になると期待されています。
    染色体とは

    染色体はヒトの細胞の中にあり、さまざまな遺伝情報が記録されています。染色体は男性・女性からそれぞれ1本ずつ受け継ぐため、同じ種類の染色体は2本ずつ存在します。通常、ヒトは1対(2本)の染色体を23対(46本)持っており、1~22番まで22対(44本)は「常染色体」、残りの1対(2本)は性別を決定する「性染色体」と呼ばれます。

    2本あるべき染色体が1本しかなかったり3本だったりすると受精卵はうまく成長することができず、着床しなかったり、着床した場合でも流産につながったりします(異数性胚)。染色体が1本しかない状態をモノソミー、1本多い3本になっているものをトリソミーといい、21番染色体が3本あるものがダウン症です。

  • PGT-Aの検査の流れ

    • 体外受精
      排卵近くまで成長した卵子を取り出して精子と受精させ、胚盤胞にまで育てます。
    • 胚生検
      胚盤胞のうち、いずれ胎盤になる「栄養外胚葉」の細胞を採取します。
    • 凍結保存
      解析結果が分かるまでは胚移植ができないため、いったん凍結保存します。
    • PGT-A
      採取した細胞を検査機関に送付して検査を実施します。
    • 移植
      正倍数性の胚・一部のモザイク胚(染色体異常・正常が混在する細胞)を選んで移植します。
  • PGT-Aのメリット・デメリット

    メリット
    • 事前に胚盤胞の染色体数を確認することにより胚移植による妊娠確率の上昇が期待できる
    • 異数性胚を除外することにより流産のリスクを低減できる
    • 単一胚移植を行うことにより双胎(胎児が2人)、三胎(胎児が3人)妊娠のリスクを低減できる
    • 妊娠に至るまでの期間や胚移植の回数の減少が期待できる
    デメリット
    • 細胞を採取する必要があるため胚細胞へのダメージが懸念される
    • 胚細胞のダメージが妊娠に及ぼす影響について明らかになっていない
    • 受精後に胚細胞まで育てる必要があるため初期胚移植を行うことができない
    • 検査の結果、正常胚が見つかるとは限らない
    その他留意点
    PGT-Aは胚盤胞の一部を切り取り、その細胞の情報を調べる検査です。つまり検査の結果が胚全体の遺伝情報を100%反映しているとは限らず、大きな異常はなくても「異数性胚」との判定が出たり、異常があっても「正常胚」とみなされたりするケースがあります。こうした偽陰性/偽陽性は全体の0.5~1%の確率で発生するとされており、PGT-Aを経て妊娠に至った場合でも全体の約10%が流産するという報告があります。一方で正常胚を移植できた場合は、約70%という高い確率で妊娠でることも明らかになっています。
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