子宮筋腫と
不妊治療について

子宮筋腫があっても自然に妊娠出産される方も多く、誰もが不妊症になるというわけではありません。一方で子宮筋腫が不妊の原因になっていることが明らかな場合は自然妊娠が期待できないため、何らかの治療が必要になります。

不妊の原因が子宮筋腫であるかどうかの判断は難しいことも多く、その対処法は人によって異なります。
子宮筋腫が不妊の原因になるケースは以下のとおりです。
子宮筋腫が不妊の原因になるケースは以下のとおりです。
  • 1)

    卵管口や卵管圧迫によって精子や卵子の通り道が塞がれる

    筋層内筋腫や粘膜下筋腫が発生した位置によっては卵管を圧迫することがあります。
    卵管は精子と受精卵の通り道であり、圧迫されると卵管性不妊になります。手術によって子宮筋腫を取り除いて通路を確保する、または体外受精を行わないと妊娠に至りません。
  • 2)

    子宮内膜圧迫による着床障害

    粘膜下筋腫は子宮内膜の下に存在するため子宮内膜に大きな影響を与えます。特に卵子が育つ内膜の環境に悪影響を及ぼして着床を妨げ、着床した場合にも流産の原因になることがあります。
    この状態では体外受精による解決が望めないため、手術によって筋腫を摘出する必要がありますが、内膜というデリケートな組織に埋まっている筋腫を取り除くことは容易ではありません。
    筋腫が大きく、子宮内膜を広範囲に圧迫している場合には、筋腫を取り除いても内膜が元通りにならない場合もあります。
子宮筋腫が不妊の原因となっているかどうかは、1)の場合は子宮卵管造影検査、2)の場合は子宮卵管造影検査およびMRI検査によって診断します。

しかし実際にははっきりとした診断がつかないケースも多く、こうした場合には実際に不妊治療を行ったうえで判断することになります。もしも妊娠できない場合は、筋腫が不妊の原因になっているとみなして治療方法を検討します。
  • 子宮筋腫とは?

    子宮筋腫(しきゅうきんしゅ:uterine fibroids)とは、子宮の筋層に存在する平滑筋細胞由来の良性腫瘍のことをいいます。妊娠が可能な年齢の女性の約20%に発生するといわれ、30~40歳代によくみられます。
    子宮壁を構成する3つの層のどの部位にできたかによって
    • 粘膜下筋腫(子宮腔内)
    • 筋層内筋腫(子宮壁の筋肉の中)
    • 漿膜下筋腫(子宮の外側)
    に分類されます。
    また、子宮頸部にできるものを頸部筋腫といい、子宮筋腫の半数以上が多発性(複数の塊が発生)とされています。

    子宮筋腫はエストロゲン依存性良性疾患であり、閉経後は縮小するため外科的な処置をしないことがほとんどです。エストロゲン依存性の疾患としては、このほかに乳腺症、乳がん、子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮内膜増殖症、子宮体がんなどが知られています。子宮内膜症は約20%の確率で合併症を発症するといわれます。特に子宮内膜症と子宮腺筋症の合併例が多く、月経困難症を合併することもあります。
  • 症状は?

    筋腫ができる場所や大きさによって症状の現れ方は異なります。

    1)過多月経・過長月経
    子宮筋腫で自覚症状がある場合にもっとも多いのは、過多月経や過長月経です。
    筋腫が子宮の内側に飛び出すなどして出血量が増えることが原因とされ、中にはナプキンが1時間も持たないケースもあります。月経の量が多く期間も長いために貧血になることもあり、貧血が進行すると輸血が必要になる場合があります。月経における出血量は人と比べることができないため、自分では異常に気付かず過多月経を放置してしまうこともあるようです。
    2)自覚症状がない
    筋腫があってもまったく症状がなく、子宮頸がん検診などで偶然発見されるケースも少なくありません。
    3)下腹部のしこり
    筋腫が握りこぶし以上の大きさになると、手で触ったときに下腹の辺りにできたしこりを確認できることがあります。
    4)頻尿・排尿異常・便秘
    子宮のお隣には膀胱があるため、筋腫が膀胱を圧迫してトイレが近くなったり、尿がスムーズに出せなくなったりします。筋腫が周りの腸を圧迫すれば便秘になることもあります。
  • 検査・診断について

    子宮筋腫の検査でもっとも活用されるのが超音波検査です。超音波検査の方法は2種類あり、お腹の表面に器具を当てて子宮や卵巣から跳ね返ってきた超音波を画像にする方法、経膣エコーといって膣の中から超音波を当てる方法があります。

    上記以外の子宮筋腫の検査方法として、内診、画像診断、細胞診、血液検査があります。

    内診とは膣内とお腹に手を当てて子宮の大きさや形、表面の状態や硬さを調べる方法です。画像診断ではCTやMRIを使用して筋腫の大きさや骨盤内の状況などを詳細に調べます。細胞診は子宮頸部の細胞をこすり取って行う検査で、がんの疑いがないかどうかを調べることができます。血液検査ではホルモンバランスや貧血の有無が分かります。
  • 治療の必要性について

    子宮筋腫が発見されたからといって、必ずしも治療が必要とは限りません。症状がまったくなくて筋腫の大きさが10cm以下、さらに妊娠を望んでいない場合は半年~1年に1回の超音波検査を行い、筋腫の大きさの変化を確認することが一般的です。筋腫は女性ホルモン(エストロゲン)のはたらきによって大きくなっていくため、閉経までの間に大きくなる可能性があるためです。

    筋腫が徐々に大きくなっているケースでは途中で手術を検討することもありますが、閉経まで定期検査を続けていればよい場合も少なくありません。また閉経すると筋腫が徐々に縮んでいくため、閉経後に治療が必要になることはほとんどありません。
    筋腫で治療が必要になるケースとしては、主に以下のようなことが考えられます。
    • 1)妊娠を望んでいるが筋腫が妊娠の成立を妨げている、または筋腫が流産や早産のリスクになっている場合
    • 2)過多月経や月経痛の症状がひどい場合
    • 3)筋腫の大きさが大きい、または徐々に大きくなっている場合
    • 4)筋腫の大きさが大きく、子宮の周りの臓器への圧迫による症状がひどい場合
    不妊治療では1)の理由による治療を担当することが多くありますが、さまざまなリスクを考慮したうえで治療方法を選択しています。
  • 子宮筋腫の治療法

    1)薬物療法
    筋腫が大きくなる原因は女性ホルモンです。 閉経すると筋腫が縮小するのは、このエストロゲンが減少するためです。そこで排卵を抑えるGnRH製剤を一定期間(おおむね半年間)用いて月経を止め、筋腫のサイズの縮小を図るのが「偽閉経療法」です。
    ただしこの方法では筋腫の劇的な縮小は望めず、現状維持に終わることも少なくありません。未婚者や妊娠を希望していない場合は試してみるのもよいですが、治療期間中は不妊治療ができないため時間のロスになる恐れもあります。
    2)手術療法
    子宮筋腫が不妊の原因となっている場合の治療として有効とされるのが子宮筋腫核出術で、子宮を摘出することなく筋腫核のみを摘出します。
    手術が適応となるかどうかは筋腫核の存在する場所によって判断されます。

    漿膜下筋腫
    漿膜下筋腫は、それ自体が不妊の原因となることは少ないため必ずしも手術を必要としません。
    ただし、筋腫が大きい場合には妊娠時の合併症を起こしやすいため手術を検討します。
    筋層内筋腫
    筋層内筋腫が子宮内膜や卵管を圧迫して不妊の原因になると考えられる場合には手術を検討します。また、筋腫が大きい場合は妊娠時の合併症を起こしやすいため手術を検討します。
    粘膜下筋腫
    粘膜下筋腫は小さいものであっても、不妊の原因と考えられる場合には手術を検討します。
  • 手術の方法

    手術には従来から行われている開腹術のほかに腹腔鏡下手術や子宮鏡下手術があり、それぞれに長所と短所があります。

    腹腔鏡下手術
    腹部に複数の穴を開けて、そこからカメラや鉗子を挿入して行う全身麻酔を必要とする手術です。高度な技術を要するため手術時間が長くなるのに対し、入院期間は短くなるというメリットがあります。またお腹の傷が小さくて済み、術後の癒着防止にも効果があるとされています。
    子宮鏡下手術
    お腹を切ることなく、膣から子宮内にカメラを挿入して行う手術です。
    適応は粘膜下筋腫の場合に限られます。
    開腹術
    従来からもっとも多く行われている術式です。手作業で行うため緻密な手術ができるというメリットがある反面、どうしてもお腹に傷が残ります。
    開腹術・腹腔鏡手術・子宮鏡下手術のうち、何を選択するかは筋腫の大きさ・数・場所・病院の設備・術者の技量により決定され、一概にどれが優れているとは言えません。
    美容的な面では腹腔鏡手術が優れていますが、核出術を行った後で妊娠した場合は帝王切開術による分娩となることが多いため、いずれにしてもお腹に傷が残ることになります。
    動脈塞栓術(UAE : Uterine Artery Embolization)
    近年、手術をせずに筋腫のサイズを縮小する方法として注目されている治療方法です。
    カテーテルで子宮につながる動脈を塞いで血流を止め、筋腫を縮小させます。ただし感染症や子宮の壊死といった大きな合併症が発症する恐れがあるため、妊娠を希望する場合には選択しないことが原則です。
    集束超音波治療(FUS : Focused Ultrasound Surgery)
    2000年頃から始まった子宮筋腫の新しい治療方法です。数百本の超音波ビームを1点に集中させ、その熱で筋腫を焼き切ります。
    体への負担が少ないため術後の回復が早く、貧血やホルモン治療中でも治療できるなどのメリットがあります。一方で自費診療となるため治療費が高く、治療に時間がかかるほか、症例数が少ないために実用化されていないのが現状です。
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